4年ほど前にキッチンをリフォームしたんですが、それまではコーナー部分に壁があって、開口部分も小さかったので狭い印象でした。加えて造り付けの食器棚が濃いブルーで、当初は汚れが目立ちにくいということで薦められて決めたんですが、使っているうちに、その色も余計に圧迫感を強めていることが判って。それで壁を取ってしまってカラーリングも白を基調として、開放感のあるキッチンにしたんです。
まずなんと言っても良かったのは、キッチンがリビングと一体となったこと。私は人を呼ぶのが好きだし、料理をしていてもお客様や家族とのコミュニケーションも取りたいと思うので、今のレイアウトなら会話を途切れさせずにキッチンに立てますね。それ
は私だけじゃなく、お客様もキッチンに入りやすくなるから、すごく手伝ってもらえるようになりました。あと仕事柄、撮影の時に全体に明るくなって料理をしている手元まで撮りやすいこと。それは料理教室の生徒さんからも見やすいって喜ばれますね。
一方でデメリットと言うほどではないけれど、使い始めてわかったこともいくつかあります。お料理の匂いがリビングの方まで流れてしまうのは予想していたことですが、それに音も。洗い物の音、食洗機の音が結構テレビを観ていても気になることがわかりました。それと以前の壁の部分は裏側が収納になっていたので、これをすべて取り払ったことで収納量が減りました。ただその分、食器などは普段使うもの、お客様用のもの、撮影や料理教室用のものなど、用途ごとに分けて収納することで、使い勝手を工夫しながら全体量を整理することもできましたね。
まあ私が料理研究家という仕事じゃなかったら、これで充分な収納量だとは思いますが。
キッチンは家全体から見ると限られた狭いスペースに、いちばん物が集まる場所です。しかも家事は毎日のこと。普通の家庭なら同じ鍋で作って、同じ食器を毎日出しては使い、洗ってしまってはまた使うの繰り返し。必要な物とそうでない物をきちんと整理することが大切だと思います。たとえば引き出物で頂いた使わない食器のためにデッドスペースを作ってしまわない工夫。中身が湿気てしまって、いざと言う時に使えないスパイス類の瓶のディスプレイでワークトップを狭くしてしまわない工夫が必要ですね。
写真上左・上右:自分の動きやすい動線を考えて、全部が取りやすい位置に配置することができた 写真下:来客用、教室用の食器類はリビング側から取り出しやすい位置に
うちはワークトップを全面フラットにして広く使えるようにしたんですが、これが単に作業のしやすさだけじゃなくて、エコにもつながることがわかってきたんです。というのも、週末にまとめて買って来た野菜なんかを冷蔵庫の中で使い切れずに腐らせてしまったりっていうことがあるじゃないですか。それがこの広さだと買って来た物を全部一度に広げてしまえるんですね。それでビニール包装やラップなどは全部とってしまって、小分けして冷蔵庫に入れます。ほうれん草だったらそのまま茹でてからタッパーに入れて冷蔵庫にしまうんです。そうすると必要な時にすぐに出せるし、最後までムダなく使い切ってしまえるんですね。いままでだと食材を広げたまま下ごしらえをするスペースがなくて、どうしても買って来た物をいったん
下に置いてしまっていて、そのちょっとした時間が食材を傷めていたと思います。そんな少しずつの積み重ねで、ムダをなくして、結果エコにもつながるっていうのが、使いやすいキッチンのおかげでできるとは思ってもいませんでした。
ストック類の食材は1ヶ月に1回、見直すくせもつけるようにしました。私は韓国料理が多いこともあって、唐辛子とかよく使う物は目に見えるところに置いています。でも粉類とか使用頻度の低いスパイス類とかは戸棚にしまっておく。その方が湿気ずに上手に保存ができるんですね。以前は全部出して並べていたこともあったんですが、結局湿気て使えなくなって捨ててしまうのはエコではないですからね。最後まで無駄なく使えるということを実践するようになったら、節約と同時に、家事自体もだいぶ楽になりましたね。
写真上左:ワークトップに段差をなくしたので、ものが断然置きやすくなった 写真上右、下左、下右 :普段使いのスパイス類は見える位置、それ以外は引出しボックスなどを有効に使ってデッドスペースをつくらない工夫
テーマカラーは白を基調に、差し色として大好きなオレンジを
最近妹が家を新築したんですが、キッチンのカラーをどうしようか、うちに何度も来て相談して、結局汚れが気になるからってうちのような白じゃなく淡いベージュに落ち着いたんですけど、キッチンのいちばんの問題は汚れなんですね。私もオープン型で白を選ぶのには結構な覚悟が必要でした。でも実際に使っていくと、白いキッチンだと汚れがすぐに目立つので、すぐにさっと拭いてしまうくせがつきました。以前の汚れが目立たないキッチンだと、いざ掃除をしようとなると結局一日がかりみたいなことになって、掃除に時間を取られてしまうのが嫌だなって思っていたので、かえって汚れが目立つことが良かったみたい。もちろん掃除が好きな方もいらっしゃるだろうから、それは人それぞれの考え方なんでしょうが。
掃除の手間のことまで事前に体験することは難しいでしょうけど、やっぱり実際に触れてみることは大事です。自分の身長を考えた動きやすさ、実際に引出しを開けてみたりして使う場面、使う姿勢などをチェックした方が絶対にいいですね。だからモデルホームで体感してみるのはすごく大切だと思います。そんな時、今自分が住んでいるところで好きなところはきちんと書き出しておいて、そこは絶対に新しいプランでも反映してもらうようにするのがいいでしょ
うね。あと、自分の生活スタイル。家族が多くて調理時間が長いとかだったら椅子を置くようにするとか、キッチンにいる時間が長い主婦目線で、やっぱりリビングも大切だけど、主婦としてはキッチンを自分の好きなように作るっていうのは暮らし全体を快適にすることにつながるような気がしますね。
子供の頃のキッチンの記憶ってそれぞれに持っていると思いませんか?お母さんが包丁を使っているトントンっていう音が聞こえてくるとか、ご飯が炊きあがる匂いが流れてきてお腹が減ったなと思うとか。カレーなんかも家庭ごとに具材や味付けによって個性があり、匂いが違っていたと思います。今の子供たちにキッチンの音は?って聞くと、チーンっていう電子レンジの音だって言います。カレーもレトルトが中心なんていうことになってくると家庭の味がなくなって、家庭の匂いがなくって、そうするとキッチンの思い出とか食の思い出とかが、消えていくかも知れないということが起きているんですね。そんな視点で考えると、いま食育ということが大きく
「キッチンから大切な物が見えてくる」と語る島本さん
取り上げられているのもわかる気がします。キッチンは大切なもの。お母さんが料理をしているのがいつも見える場所っていうのが、子供たちの教育に欠かせない場所になっているんじゃないかって思いますね。
ある家庭ではお子さんが手伝ってくれるように、それで安全を考えてコンロはIHヒーターにするという。でも考え方によっては火がそこにあって、目で火が見えるから、子供たちにはここが危ない場所というのがわかってくるとも言える。どちらが正解というのではないですが、見えることが大切っていうことは絶対にあると思うんですね。お母さんがキッチンで何をしているのか見えると、それに興味を持ってコミュニケーションも増えてくるはずです。食べることだけに限らず、いろんなお話ができるといいですね。見ることっていうのは本当に大切なことだと思います。だから家族から、毎日の暮らしから、見えるキッチンで学べることはすごくいっぱいあって、きっとそれは大人になっても記憶の中に残っている、家族にとってとても大切な思い出になるんじゃないかと思いますね。
栃木県出身。1975年韓国人の父と日本人の母の間に生まれる。世界40ヶ国、100回を越える海外旅行で出会った各国の料理をヒントに主婦や同世代の女性に向けた手軽でおいしいレシピを提案し、雑誌やテレビなど各種メディアで活躍中。実生活から生まれるシンプルなアイデアと、身近な素材でおしゃれな食卓を演出するアイデアには定評がある。料理教室「manna kitchen(マンナキッチン)」主宰。また、母の味を世界で一冊だけの料理本にして我が子に贈る「お料理アルバムMy Dear」のプロデュースや日々の食生活で手軽にエコを実践する提案サイト「野菜でエコごはん」の開設。ほかに「もったいない」を考えるMOTTAINAIラボに参加するなど、精力的に活動している。