「生理的に嫌だ」とか「生理的に受け付けない」、という言葉をよく耳にします。初対面なのに、ちょっと挨拶を交わしただけでもそう思う時があります。言い換えると「言葉で説明できないけど、なんか嫌な人」となるのでしょうか。見逃せないのは、これがあながち間違っていないということです。第六感などと言われますが、過去の経験や様々な記憶によって、総体的に判断するからかもしれませんね。
同様に、住まいについても「あの家、なんか好きになれない」とか「どうも落ち着かない家だな」と思うことがあります。それはある意味「その家では生活できない」「この家では家族を守ることができない」ということを無意識的に発しているのではないでしょうか。建築士として、そのまま放っておくと良い家ができませんので、原因を考えてみることにします。
「一般的にそうだから」という理由で納得させられていることでも、自分が不快に感じるものは、無意識下でストレスになることがよくあります。例えば住宅のトイレはどこに持っていけばいいのでしょうか。階段の下や北側の陽のあたらないところなど様々ですが、基本的にはあまりいい場所にありませんよね。リビングと違って、用を足せばすぐ出るので、居室としては使い道のないような場所に計画されているのが理由でしょう。しかし本当にそれだけで決めていいのでしょうか。階段を上るたびにトイレのにおいが漏れているように感じたり、玄関に音が漏れないかと心の底では心配したりしているかもしれません。その無意識の部分が、「なんか嫌な家」につながることもあるのです。また私事で恐縮ですが、以前実家を設計した時に、祖母の部屋の窓にロールスクリーンをつけたのですが、どうしても窓との間に少し隙間ができてしまいました。外からその隙間は絶対に見えないのですが、どうも落ち着かないということで変更した経験があります。見えないと頭でわかっていても、気持ちの方が優先しているんでしょう。
逆にストレスを感じるものばかりではなく、心理的に良い影響を与えるものもあります。例えば狭い廊下でも視線の先に窓があり、そこから緑が見えていると、気持ちも和らぎます。さらに、その窓から緑を通過した風を流す道をつくってあげると、さわやかな香りにリラックスできます。
また、対面キッチンは機能的な家事導線もあり、部屋を見渡せるだけでなく、自分がこの家を守っているという自負が心理的に働きます。さらにこんな例もあります。「横になれるから」という理由で、畳の部屋を欲しがるお父さんにもよく出会いますが、これは単純に横になれる部屋が欲しいだけでなく、和室という予備の部屋があることによって心の余裕が生まれる、ということが心理的に作用しているからかもしれません。
このように、様々な要因が人の心理に影響を与えています。その影響を考慮しながら普段のストレスを無くすようにする工夫をすれば、より快適な住宅をつくることができるのではないでしょうか。マイホームを描くときには、住む人が心の深層から求めているのは何かまで踏み込んだ設計をしたいものですね。