私が住宅の設計を始めるとき、まず基本となる住人の家族構成をお聞きします。家族構成によって個室の数やリビングの大きさ、玄関の広さなど当然変わりますので、計画する上で重要な要素の一つとなります。また、前回ご紹介した「人間が求める住宅(2)〜人間工学から考えると〜」において触れました人間工学には一人当たりの必要面積というものがありますが、あくまでも平均値であるので各自感じ方が違います。個人によって満たされる住居の広さというものが違ってくるのは当然でしょう。では、住居の広さ以外で家族が「居心地が良い」と感じるのは何でしょうか。家族構成ごとに考えてみましょう。
一般的に家族構成をわけてみると、下記のようになるのではないでしょうか。(細かく言えば、もっと様々な構成があるのでしょうが、ここでは大きく捉えることにします。)
- 単身者
- 夫婦/カップル
- 1世帯家族(夫婦+未婚の子)
- 2世帯家族(親夫婦+子夫婦+未婚の子)
では、それぞれの住まいについて設計する時のポイントを見てみましょう。
このタイプは学生や単身赴任の社会人、高齢者の一人暮らしといった様々な年齢層の人が関係しています。単身者の設計のポイントは部屋というよりも、周囲の空間との関わり方が重要と言えます。学生用であれば様々な時間に寝起きするので、玄関から直接ベットが見えないようにする。社会人であれば出張もあるので、郵便受けを大きくする。高齢者の場合は、共有スペースに近い窓等をすりガラスにするなどして、外部からの気配を感じられるようにする。など、社会との接点が重要になります。
このタイプは共同で生活する要素が入るので、自然と室内に目が向いてきます。特に2人の生活スタイルを受け入れるリビング中心の計画になるでしょう。個室にこもるのではなく、リビングの中でひとりになれる仕掛けを作ってあげることが、このタイプの家族には必要と言えます。例えば、LDKのダイニングスペースを天井だけ高さを変えてあげると、そこだけが一つのスペースとして感じられ、同じ空間ですが夫婦が別のことに集中できるようなりました。
このタイプで特に重要なのは、こどもの成長によって家族構成が変わる可能性があるということです。将来的に部屋の役割が変化できるように、改装のことも考えながら設計しないといけません。また、お客様をお迎えする機会が多いのも特徴でしょう。するとリビングの中にパブリックな要素が大きく影響するので、家の中での動線計画が必要になってきます。私は少し余裕のある住宅では階段を2つ設けるようにしています。そうすると部屋の行き止まりがなくなり、広さを感じると共にパブリックとプライベートな空間を状況に合わせて動くことが出来ます。
最近多くなってきている、親世帯と子世帯の同居という形です。このタイプで注意すべきポイントは、世帯同士の関係でしょう。生活スタイルの違う2つの世帯が一緒に生活をするとなると、音をどれだけ共有するか、言い換えると気配を感じる設計にするか、そうでないかが重要になってきます。そのため玄関の共有の有無はもちろん、全体の配置から配管の流れまで、注意深く計画しないといけません。例えば、就寝時間帯の違う親世帯の寝室を、子世帯のリビングから立体的に離すことによって、夜リビングで気を使わずに過ごせるようになります。そうすると、生活時間の違いから生じるストレスも軽減され、お互いの世帯がより仲良く暮らすことが出来ます。
以上はごく一部のポイントですが、人数や世帯数によって設計で注意しなければならない点が違ってきます。構成を注意深く観察し、様々な家族や友人などとの人間関係のストレスを、設計によって解消・軽減できれば、そのとき「居心地の良い」住宅が生まれるのではないでしょうか。