今回でこの「住まいの考え方」も最終回となります。前回まで、人間が求める住宅や家族が求める住宅、敷地や地域、さらには地球が求める住宅など色々な角度から住宅を考えてきました。回を重ねるごとに考える規模を大きくし、一見関わりのないテーマもあるように思えますが、実はすべて一軒の家を建てる上で関わってくるテーマです。なぜなら単純にミクロからマクロまでを考えるということだけではなく、それぞれが関係しながら、色々なシチュエーションを考慮しないといけないからです。今回は様々なアプローチがどのように関係しているのか、私が手がけた実例をもとに見ていきましょう。


間取り図とパース画像は、大阪市内の大通りに面した敷地が40㎡弱の狭小地にて計画したものです。夫婦と子供という家族構成で、それぞれの居室とお客さんをもてなせる大きなダイニングが要望でした。

そこでまず考えたのは、敷地の形状や周辺環境からその狭小地を最大限有効に使うにはどうすればいいかということです。狭小地の場合、人間工学に基づいたデザインが最適となります。階段の寸法も最小で設計し、それでいてその狭さを感じさせないように人間の心理に訴えかけるようなデザインが必要とされます。そして、家族の生活スタイルが子供の成長とともに変化していくため、家族の未来を考え可変性のあるプランニングをしないといけません。大都市の中心部であるため、周辺住民との関わりや環境共生の考え方も大切になってきます。この様々な立地条件とお客様の要望を総合的にまとめるのが建築家の仕事であり、お客様がその土地に快適に住めるよう腕を振るうところであります。

そこで私が考えたプランは、敷地を最大限使うとともに、上部から光を取り込みさらに道路側には視線を遮りつつ遠くに開くルーバーを設け、狭さを感じさせないように設計を行いました。面積の都合上、キッチンとダイニングは別の階ですが、一部に吹き抜けを設けることで連続的な空間を設計しました。それによりお客さんをもてなす部屋と子供の遊び場を分けることが可能となり、また柱間に設けた収納は断熱効果を高める役目もし、その収納により壁に凸凹を無くすことで、部屋に広がりと心理的連続性を与えました。つまりは大げさにいえば、住宅には住まう人の世界と外の世界との交わりが必要なのではないでしょうか。設計士はその他にも様々な要素を一軒の住宅に詰め込み、人と地球との連続的な関係を設計しているのです。



この12回連載という限られたコラムの中でお伝えしたかったことは、一つの住宅であっても社会と繋がっていて、周辺社会を考慮して住宅を設計しなければならないということです。そして、住宅の快適性を求めることは最新の住宅設備機器を導入するだけではなく、色々な角度から住宅を考え直すことでもあります。難しく考えず、住宅を楽しくデザインすることが住みやすい家を設計する秘訣でもあります。そうすると、住まう方もその住宅に愛着や意義を見いだすことができ、長く大切に生活するようになるのではないでしょうか。「住まう人が大切に思える住宅」。そんな住宅の設計をこれからもお手伝いできることを願って、最後のコラムを終わりたいと思います。ありがとうございました。

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