今回で9回目となりますが、今までは敷地および住宅内について述べてきました。そこでこれからはもう少し大きな視点を取り入れていこうかと思います。
まず、皆さんも一度は聞いたことがあると思いますが、建物を建築する上で守らなくてはいけない法律を定めたものに「建築基準法」というものがあります。これは戸建て住宅を建てるときにも、大きなビルを建てるときにも厳守しなくてはいけません。数年前に「姉歯事件」として構造偽装が世間を賑わせていたのも記憶に残っているのではないでしょうか。その建築基準法は細かく規定されているので、ここで簡単に説明するのは難しいのですが、大きくは単体規定と集団規定に分けることができます。単体規定というのは、建てようとする建物が地震や、火災などから住人(滞在者)を守ることが出来るようにするための規制です。一方、集団規定は街など建物が密集している中で、隣近所の建物に様々な環境変化(日照、延焼等)や災害などで影響を与えないようにするための規制になっています。この建築基準法以外にも地域ごと、都市ごとに建築協定や景観条例があります。
例えば、京都市中心部では景観規制による建築物の高さ制限があり、また歴史的な街並のところでは表面に使われる素材まで規定されていたりもします。芦屋市でも有名な六麓荘町では、最低敷地面積(400㎡以上)が規定されていたりもします。それはその地域がどのような街、特徴にしたいかという方針で作成されたものです。一部では住人を選別するのか、との声もありますが、一つの方針が街の魅力を高める役目も果たしているのです。例えばイタリアでは皆さんご存知のように歴史的な街なので外観の規制が非常に厳しく、建て替えることがほとんど出来ません。ですので、リフォームでうまく住み継いでいます。そのような努力のもと、世界有数の観光地そして美しい街として存続しているのではないでしょうか。
日本では以前も書かせていただいたように、スクラップ&ビルドの考え方で建物自体の寿命が短く、街並もどんどん変化していきます。刺激の在る都心の商業地ではいいのかもしれませんが、住宅地でそのようなことが起こっていては、近隣にあってほしい記憶そのものがなくなってしまいます。記憶は人を安心させますし、共有も出来ます。建築、そして住宅とはそこで育ったという記憶を作って、保存させていくことも重要な役目なのだと私は思います。
隣近所のことを考えると、その街にあった、そして長く住み継げる住宅を設計する事が大切です。例えば、少し外壁の色彩を考慮することなどでも違います。また、街の建築協定についても住民からどんどん提案があってもいいのではないかと思います。その協力しながら街を良くしていくという姿勢こそが、そこに長く住まうことができる環境を育むことでもあるのではないでしょうか。