「残価設定型の住宅ローンとは?」「どんなデメリットやメリットがある?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、残価設定型の住宅ローンについて
を体系的に紹介します。
住宅ローンの活用方法の幅を広げられますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
残価設定型の住宅ローンとは?そもそもの仕組みを理解しよう!
残価設定型ローンについて初めて聞いた方や、聞いたことがあっても仕組みがよく分からない方は多いのではないでしょうか。ここでは、残価設定型住宅ローンの基本的な仕組みと特徴について、わかりやすく解説します。仕組みや特徴を理解することで、後述するデメリットもより深く理解できるでしょう。
残価設定型の住宅ローンの仕組み
残価設定型住宅ローンとは、「住宅の価値に基づく残価」を契約時に設定し、その金額を差し引いた金額を契約期間内に返済していく仕組みです。
残価設定型の住宅ローンにすることで、月々の返済が比較的低く抑えられます。
例えば、借入金額が5,000万円で残価が2,000万円の設定をされた場合は、3,000万円に対して利息がかかり、月々の返済をしていくことになります。
残価設定型住宅ローンは、月々の支出を少なくしたいと考える方にとっては魅力的な選択肢である一方、ローン期間終了時に大きな額を支払わなければなりません。
そのため、このタイプのローンを選ぶ場合は、将来的な資金計画とリスクをしっかりと考慮する必要があります。
これまで残価設定ローンが普及していなかった理由
住宅ローンにおける残価設定型が普及していなかった背景には複数の要因が絡んでいますが、主な要因の一つとして、「住宅の残価を正確に設定する難しさ」が挙げられます。
自動車の場合は、返済期間が短いため将来価値を予測しやすく、金融機関は現実的な残価を設定できます。
しかし、住宅ローンの返済期間は最長で35年と長期にわたり、住宅の価値は多くの要因によって変動するため、予測が困難です。
住宅の価値予測を誤って、残価よりも住宅の価値が低くなった場合、その差額分は住宅ローンを提供した金融機関が負担することになります。
金融機関が背負うリスクを最小限にするためには慎重な予測が求められますが、将来の住宅価値を正確に見極めることは難しく、金融機関が保守的な姿勢を取っていました。
このような背景から、これまでは残価設定型の住宅ローンの導入は限定的でした。
日本の住宅寿命の短さと残価設定ローンの相性
日本において残価設定型住宅ローンの普及が進まなかった最大の要因は、日本の住宅市場における「建築から約30年が経つと資産価値がほぼゼロになる」考え方です。
総務省のデータによると、日本の住宅は木造住宅が約6割であり、国税庁の減価償却費の計算方法によって、木造住宅の寿命は約30年とされています。
そのため、築年数を重ねるにつれて住宅の価値は減少し、中古住宅市場での正確な評価が困難となっています。
そのため、日本において残価設定型住宅ローンの普及が進まなかったと考えられるでしょう。
住宅の寿命が延びていけば残価設定型ローンは利用しやすくなる!
残価設定型の住宅ローンが普及してこなかった背景を解説しましたが、今後住宅の寿命が延びれば残価設定型ローンは利用しやすくなるでしょう。
日本には「長期優良住宅」という制度があり、適切なメンテナンスや健康診断を行うことで税制優遇を受けられる仕組みが存在します。
長期優良住宅とは、長期にわたって良好な状態を維持するために、耐震性能や省エネ性能などが優れた住宅のことです。
長期優良住宅にすることで、住宅ローン控除や所得税、不動産取得税、固定資産税などの減税措置を受けることができます。
これらの減税制度がある背景からも、近年長期優良住宅の新築戸建ての着工戸数が増加傾向にあります。
ただし、建築業界は多様で、最新技術や基準への対応力は異なります。技術に敏感な企業は対応できますが、そうでない企業も多く、新たな基準に適合するまでの時間や労力が必要です。
また、このような新基準に対応できない施工会社は廃業または経営危機に陥る可能性もあり、これに反発する声が出ることも考えられます。
同様に、中古住宅市場を取り巻く不動産会社や消費者の意識改革も重要であり、価値のある中古住宅の需要を高めるためには、住宅の長寿命化と改善の重要性を認識する必要があると言えます。
住宅の寿命が延びることで住宅の価値が下がりづらくなるため、金融機関が残価設定型ローンを提供するメリットが大きくなり、金融商品として普及しやすくなるでしょう。
残価設定型住宅ローンには罠がある?デメリットを整理しよう!
残価設定型住宅ローンを利用するデメリットは、以下の3つです。
- ●住宅ローン完済後に資金が必要になる
- ●通常の住宅ローンより総支払額が増える可能性がある
- ●住宅のメンテナンス費用と手間がかかる
デメリットを把握し、正しい知識を身に着けることで賢い住宅ローン選びができるでしょう。
住宅ローン完済後に資金が必要になる
残価設定型住宅ローンには、ローン期間終了後に以下の選択肢の中から選ぶ必要があります。
- ●自己資金を使って住宅を購入し、ローンを一括で返済する
- ●80歳までの期間内に、残っている金額に基づく住宅ローンを再度組む
- ●リバースモーゲージ型住宅ローン(※)に借り換えて、死亡時に担保となる不動産を売却して残債を返済する
- ●住宅を売却して、借り入れたローンを完済する
(※)リバースモーゲージ型住宅ローンとは、自宅を担保にして借入をして、利息のみを毎月返済する仕組みのことです。
元金は契約者が亡くなった際に「自宅の売却」もしくは「相続人が一括返済」の選択で返済することになるため、月々の返済負担を軽くできる返済方法です。
しかし、これらの選択肢を検討する際には、新たな資金が必要であるという点を十分に理解しておく必要があります。
まず、住宅を買い取る選択肢では、ローン期間終了後に全額を支払うための自己資金が必要です。
住宅の残価を支払い、完全な所有権を得ることができますが、そのためにはかなりの資金が必要となります。
また、住宅ローンを組み直す場合でも、ローンの残債を新たなローンで一括返済し、その後も月々の返済が続きます。
さらに、住宅を売却して新たな住まいを探す場合、売却に伴う手数料や税金、新たな住宅の購入費、諸費用などを考慮する必要がある点は覚えておきましょう。
新しい住宅を手に入れるためには、現実的な資金計画が欠かせません。
重要なのは、ローン期間中から満期後の選択肢を検討し、そのために必要な資金を計画的に準備しておくことです。
予想外の費用や支出を回避するためにも、ローンの終了時点でどの選択肢を選ぶかを検討し、そのために必要な資金の確保を考えましょう。
通常の住宅ローンより総支払額が増える可能性がある
80歳までの住宅ローンを組み直して残債を返済する場合、通常の住宅ローンと比べて月々の返済負担が軽減されることが多いですが、総支払額が増える可能性があります。
また、健康状態や経済状況の変化を考慮し、多くの金融機関では完済時の年齢は80歳を上限としています。
健康上の理由や収入の変動によって、80歳を超えて住宅ローンを組むことが難しくなると、現在の住まいを手放さなければならなくなるリスクが生じるでしょう。
80歳までの住宅ローンは月々の返済負担を軽減する一方で、将来の総支払額や将来の住宅所有に関するリスクを考慮する必要があります。
個々の状況や将来の計画に応じて、長期ローンのメリットとデメリットを把握し、慎重に判断することが大切です。
住宅のメンテナンス費用と手間がかかる
高い資産価値を持つ住宅の場合、その残価は一般に高めに設定され、残価設定型住宅ローンのメリットがより顕著に現れます。
特に長期優良住宅は、貸し出す金融機関側も高い収益価値を見込める可能性があるため、さらに有利な条件で残価設定が可能となるでしょう。
ただし、長期優良住宅は管理面での注意が必要で、10年に1回の点検と、30年間で最低3回の点検を受けることが義務付けられています。
このことから、通常の住宅と比較して、手続きの手間やメンテナンスコストが増えることがデメリットとして挙げられます。
長期優良住宅のメリットを最大限に活かすためには、定期的な点検やメンテナンスを厳守することが大切です。
高い収益価値や有利な残価条件を設定できる一方で、義務を遵守し、住宅の品質や価値を維持するための努力が欠かせません。
この点を考慮して、長期優良住宅を選択する際には、将来的なメンテナンスや手続きにかかるコストや労力も含めて総合的に判断することが大切です。
残価設定型住宅ローンを活用すべき?メリットを整理しよう!
残価設定型住宅ローンを利用するメリットは、以下の4つです。
- ●月々の返済が軽減される
- ●資産の下落リスクを回避できる
- ●ライフスタイルに合わせた住まいを選べる
- ●収入が減るリスクの対策ができる
デメリットだけではなくメリットを把握することで、ご自身に合わせた住宅ローン選びができるでしょう。
月々の返済が軽減される
残価設定型住宅ローンの最大の魅力は、月々の返済負担を軽減できることです。
残価設定型の住宅ローンでは、最初に住宅の残価(将来の下取り価格)が設定され、その後、借入額から残価を差し引いた金額を返済していきます。
そのため、通常の住宅ローンと比較して月々の支払額が軽減され、家計の負担を軽減できる利点があります。
しかし、注意が必要なのはローン期間終了後の選択肢です。
先述した4つの選択肢から、どの方法で残債を返済するかを選択する必要があり、最終的には借り入れた金額を返済しなければなりません。
このように、残価設定型住宅ローンは月々の支払いを軽減できる利点を持つ一方で、返済の最終的な責任を忘れずに考える必要があります。
将来の資金計画を練り、ローン期間終了後の選択肢に備えることが重要です。
資産の下落リスクを回避できる
残価設定型住宅ローンでは、ローン期間終了後においても、あらかじめ設定した残価での買取が保証されています。
具体的には、住宅の資産価値が何らかの理由で下落していたとしても、契約時に設定した残価で確実に買い取ってもらうことができます。
これにより、ローンを完済していない状態で家を売却する必要がなくなり、家を売却した場合でも、残債を気にすることなくスムーズに取引を進めることができるでしょう。
ただし、このメリットと引き換えに買取価格が低めに設定される傾向がある点には、注意が必要です。
特に、ローン期間中に家を売却する場合には、ローンを完済せずに売却することになるため、中古住宅としての価値よりも低い買取価格を受け入れる可能性があります。
このため、将来の計画や状況をよく考慮して、売却タイミングを検討する必要があります。
ライフスタイルに合わせた住まいを選べる
従来の住宅ローンは、返済期間中に決められた金額を支払い続ける仕組みであるため、途中で家を売却したり、資産価値が低下したりすると、残債を完済できない可能性があります。
一方で、残価設定型住宅ローンはローン期間終了後に4つの選択肢があることによって、生活スタイルや状況に合わせて選択肢を柔軟に組み合わせることができます。
特に、家を住み替える場合でも、残価設定型住宅ローンを利用することで、古い住宅の購入者を心配する必要がなくなるでしょう。
将来の計画に合わせて柔軟に住まいを選択することができ、ライフスタイルの変化に対応できるのは大きなメリットです。
収入が減るリスクの対策ができる
高齢者の雇用確保の重要性が増している中で、企業においては60歳前後での定年退職後も、再雇用を促進する取り組みが増えています。
また、役職者に関しても、55歳前後での「役職定年」が導入され、その後は役職手当が支給されないケースが増えています。
30歳で35年間の住宅ローンを組んだ場合、完済するのは65歳です。収入が低下しがちな55歳以降、10年間もローンの支払いが継続するため、家計に大きな負担をかけるリスクが存在します。
このようなリスクに対処するために、残価設定型ローンの返済軽減オプションが有効です。
オプションにより、返済期間中に月々の支払いを軽減できるため、将来の収入が減少しても家計に負担がかからないようになります。
これは、55歳以降の収入低下リスクに対する安心感を提供し、住宅ローンの返済における不安を軽減する助けとなるでしょう。
残価設定型住宅ローンはどんな人に向いている?特徴を抑えておこう!
残価設定型住宅ローンが向いている人の特徴は、以下の3つです。
- ●自由に住まいを選びたい人
- ●相続人がいない人
- ●年金生活でも返済が続く人
残価設定型住宅ローンにはさまざまなメリットやデメリットがあるため、すべての人に等しく適しているとは限りません。
向いている人の特徴を抑えることで、ご自身の状況や将来設計に照らし合わせながら、最良の選択をする手助けとなるでしょう。
自由に住まいを選びたい人
残価設定型住宅ローンは、持ち家と賃貸の良い点が組み合わさっています。
まず、自分の選んだ家に住みながら、好きなようにリフォームやカスタマイズができる点は持ち家ならではのメリットです。
家を自分好みにアレンジし、居心地の良い空間を作り上げることができます。
また、残価設定型住宅ローンは住み替えの自由度も高いです。
ローン期間終了後には、住宅を売却して新しい住まいを選ぶこともでき、リフォームしてそのまま住み続けることもできるため、賃貸のように生活スタイルや状況に合わせられます。
このような特徴を総合的に考えると「持ち家の魅力と賃貸の利点を両方得ながら、自由に住まいを選びたい」人にとって、残価設定型住宅ローンが適していると言えます。
相続人がいない人
相続人がいない場合や相続人が家を継ぐ意思がない場合などでは、所有者の死後に物件が空き家となるリスクが生じることがあります。
一方で、残価設定型住宅ローンを利用すると、ローン期間終了後に金融機関が指定した残価で住宅を買い取ってくれます。
これにより、相続人がいないケースや相続人が家を継ぐ意志がない場合でも、家が空き家になる心配がありません。
この点から、家の相続に関して不安を感じている人にとって、残価設定型住宅ローンは有用な選択肢と言えます。
自分や家族の将来を考える際に、この特徴を活かしてローン選びを検討してみることがおすすめです。
年金生活でも返済が続く人
老後も住宅ローンの支払いを続けることが必要な人にとっても、残価設定型住宅ローンは向いています。
残価設定型住宅ローンは月々の返済額を軽減してくれるメリットがあります。
例えば、30代後半以降で35年ローンを組むと、70代になっても一定期間返済を続ける必要がありますよね。
こうした年齢層の人々は、退職後の年金生活においても家のローン返済負担が残りますが、残価設定型住宅ローンでは月々の支払い額を削減できます。
これにより、将来の年金収入を考慮しながらも、家計の安定を保つことができます。
つまり、老後における住宅ローンの支払いを軽減したいと考える人々にとって、残価設定型住宅ローンは効果的な選択肢です。
自分のライフステージや将来の状況に合わせて、負担を軽減するための工夫をすることができます。
残価設定型住宅ローンの取り扱い事例を紹介
残価設定型住宅ローンの仕組みやメリット、デメリットを知った上で、実際にどのような状況で残価設定型住宅ローンが利用されているのかを知ることが大切です。
事例を通じて、具体的なシチュエーションや適用例を知ることで、ご自身の選択に活かすことができるでしょう。
例えば楽天銀行では、国の支援を受ける一般社団法人移住・住みかえ支援機構と協力して、2023年4月から残価設定型住宅ローンを提供しています。
取り扱いを開始した住宅ローンは、固定金利に限らず、新築戸建住宅の契約者の大部分が利用している変動金利も選択できるため、多くの顧客の要望に応えることができるでしょう。
このローンには、以下の2つのオプションが付属しています。
- ●残価設定月の後に一般社団法人移住・住みかえ支援機構が住宅ローンの負債残高と同額で住宅を買い取る
「残価買取オプション」 - ●毎月の返済額を大幅に軽減する新型リバースモーゲージに切り替える「返済額軽減オプション」
楽天銀行が2013年11月に導入した「楽天銀行住宅ローン(金利選択型)」は、来店不要で申し込める手軽さや魅力的な金利設定、一律330,000円(税込)の融資手数料などが魅力です。
その他の銀行では、特定の住宅メーカーと提携しているケースもあるので、建てたい住宅メーカーがあらかじめ決まっている場合には、金融機関の担当者と相談してみるとよいでしょう。
なお、紹介した内容はあくまで執筆時点の一例で、金融機関の制度は今後変更される可能性があります。最新の情報や詳しい案内は、金融機関に直接問い合わせてください。
まとめ|残価設定型住宅ローンを活用するなら正しい知識を身に付けよう!
今回の記事では、残価設定型住宅ローンについて紹介しました。
残価設定型住宅ローンには多くのメリットやデメリットがありますが、仕組みを正しく理解することが大切です。
また、さまざまなメリットやデメリットがあり、すべての人に適しているわけではないため、賢く活用するためにも正しい知識を身に着けておきましょう!