家を新築しようと考え始めた時、平屋にするか二階建てにするか迷うという人は少なくありません。それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なるので、よく検討して決めたいですね。
この記事では、平屋と二階建てそれぞれのメリット・デメリットや、選ぶ時のポイントについて紹介します。施工事例もお伝えするので、ぜひ参考にしてください。
平屋のメリットとデメリット
平屋は「1階建て」を意味する言葉で、室内に階段がなく、リビングや寝室などの居室や水まわりのスペースが、玄関と同じ階にある住宅を指します。昔ながらの日本家屋をイメージすると、分かりやすいですね。平屋には、次のようなメリットとデメリットがあります。
【メリット1】生活動線がコンパクトで動きやすい
平屋には階段がないため、日常の生活動線において上下移動がありません。たとえば、洗濯物を屋外に干す場合、二階建てだと1階の洗面脱衣室から2階のベランダに移動するパターンが多いですが、平屋は同じフロアを移動すれば庭に出られます。生活行為すべてが平行移動で対応できるので、生活動線がコンパクトになるのがメリットのひとつです。
上下移動があると、転落や転倒による事故の危険性が高くなります。運動能力が発達していない幼児や、足腰の筋力が衰えてくる高齢者は、主に階段で転落や転倒による事故に遭いやすいです。しかし、平屋は階段がなく、家の中の段差は玄関まわりのみなので、こうした事故が起きる危険性を大幅に抑えられます。ストレスを感じることなく、安全に家の中を移動できるのもメリットと言えるでしょう。
【メリット2】地震や台風に強い
平屋は階層が一つしかないため、家全体にかかる荷重が大きくありません。また、屋根の位置が二階建てよりも低いので、重心が地面に近い位置にあり、家全体が安定しています。地震によって大きな揺れがくると、住宅全体の質量が大きいほど、また住宅の高さが高いほど被災リスクが高まるため、平屋は比較的地震に強い構造と言っていいでしょう。
また、平屋は1フロアの中でできるだけ効率的な間取りにするために、長方形などシンプルな形にするのが一般的です。台風による強風の影響は、高さが低く全体がシンプルな形であるほど受けにくいので、平屋は自然災害に強いと言えます。
【メリット3】天井の高さの自由度が高い
一般的に、二階建ての居室の天井高は2.4〜2.5mに設定されます。家全体の高さを1階、2階、小屋裏で分けるため、高天井にするのは難しいケースが多いです。できるとすれば、一部を吹き抜けにして開放感を出すといった方法になります。
しかし、平屋は2階がないので、居室の天井を高くすることができます。天井が高いと、空間の開放感が増して、ゆったりとした印象を与える効果が得られるため、床面積はそんなに広くなくても広く見せられるのです。冷暖房効率が下がらないよう、断熱性能を高めたり空調設備の配置を工夫したりする必要はありますが、最大4mあたりまで高くすることができます。
天井のバリエーションが増やせるのも、平屋ならではのメリットです。二階建てだと、2階があるため1階の天井は平たくする必要がありますが、平屋はそういった制約がないので、自由な形状で設計できます。
たとえば、切妻屋根の形状を生かして天井中央を高くすると、ロッジのような開放感あふれる雰囲気が出せます。意匠梁をつけると、ダイナミックさも加わりますね。
片流れ屋根を生かした傾斜を室内にも取り入れて、勾配天井にすることも可能です。屋根に近い位置に高窓を設けると、自然光が高い位置から室内に大きく広がり、日中はかなり明るくなります。
こうした傾斜のある天井にすると、床面積以上に広い印象を与えられます。内装にこだわって高級感を出すなど、個性的な雰囲気を楽しめるのがメリットです。
【デメリット1】二階建てより建築費用が高くなりやすい
延床面積(建物のすべての階の床面積を合計した面積)が同じ場合、一般的に平屋の方が二階建てよりも建築費用が高くなります。1階しかない平屋は、二階建てのよう2フロアで間取りを考えることができない分、どうしても幅や奥行きの寸法が広がるため、基礎や屋根を大きくつくらなければいけません。そうすると、資材を多く必要とするので、建築費用が高くなりやすいのです。
建築費用は、間取りや住宅設備、耐震性や断熱性なども影響してくるため、一概に平屋の方が高くなるとは言えません。しかし、二階建てよりも高くなりやすいと想定しておく方がいいでしょう。
【デメリット2】二階建てより広い土地が必要
同じ延床面積の家を建てる場合、平屋は二階建てよりも広い面積の土地が必要になります。たとえば建ぺい率50%の土地に延床面積40坪の家を建てようとすると、二階建てなら1階20坪、2階20坪と分けられるため40坪の土地でOKですが、平屋の場合は1フロアで40坪の家を建てることになるので、80坪の土地が必要です。元々所有している土地に家を新築するのではなく、新たに土地を購入して家を新築するなら、二階建てよりも広い土地を購入しなければならなくなり、コストがかかります。
二階建てのメリットとデメリット
二階建ては、もっともポピュラーな形の住宅です。1階と2階の床面積がほぼ同じ「総二階建て」と、1階よりも2階の方が小さい床面積になっている「部分二階建て」とがあります。二階建てには、次のようなメリットとデメリットがあります。
【メリット1】住宅密集地でも日当たりを確保しやすい
戸建住宅が密集している住宅地だと、隣家との距離が近いことが少なくありません。東や南、西に隣家があると、外壁に設けた窓から自然光を取り入れるのが難しいこともあります。
しかし、二階建てなら、住宅密集地であっても2階の日当たりを確保しやすいです。間取りを工夫して吹き抜けを設ければ、1階にも自然光をたっぷり取り入れられると同時に開放感も得られるでしょう。
【メリット2】浸水時に上階へ避難できる
日本は自然災害が多く、特に近年は地震や台風、大雨などが全国的に発生しているので、家族の安全を守るためにも住宅本体の安全性が気になりますね。
二階建ての場合、台風や大雨で万が一床上浸水が起きても、上階に避難できます。浸水する前に1階にあるものをできるだけ2階に上げておけば、破損や劣化を防ぐことも可能です。日頃から防災グッズや非常食などを準備しておくことで、自宅内で生活できる「在宅避難」がしやすい点は大きなメリットと言えるでしょう。
【メリット3】土地を探しやすい
二階建ては2フロアを使って設計するので、平屋ほどの建築面積(各階のうちもっとも広い階の床面積)を必要としません。高さを生かして必要な延床面積を確保するため、狭い土地や変形した土地でも対応しやすいのがメリットです。
特に都心部では、狭い土地や細長い形状の土地が少なくないので、高さを上手に活用することで必要な居住スペースを確保できる可能性が高いと言えます。
【デメリット1】平屋よりメンテナンス費用がかかる
二階建ては、平屋よりも高さがあるので、外壁の面積が広いです。外壁のメンテナンスは、劣化や破損などによる住宅の寿命短縮を避けるため、約10年周期で行うのが望ましいので、広い面積の外壁をその都度メンテナンスする費用は、平屋よりも多くかかります。外壁や屋根、雨どいなどのメンテナンスを行う時には、作業に合わせた高さの足場を組む費用も必要です。
また、室内においても、メンテナンスの手間は平屋よりかかります。「階段がある」「外壁面積が広い分窓の数が多い」「間取りが平屋より複雑になりやすい」といった理由から、日常的な掃除の手間が増えやすいでしょう。
【デメリット2】高齢になると階段の上り下りが苦になりやすい
階段がある二階建ては、同じフロア内の平行移動に、階段の上り下りという上下移動が加わります。そのため、日常の生活動線が長くなりがちです。しかも、階段は段差が連続するため、小さい子どもや高齢者が転倒したり転落したりする危険性が高くなります。
新築時は苦にならなかった階段の上り下りが、年を重ねるにつれて負担に感じるようになることも。子どもが巣立ち、夫婦だけの生活でほとんど2階を使わなくなると、2階全体がデッドスペースというもったいない状況になるケースは珍しくありません。せっかくある居室を活用できないのはデメリットと言えるでしょう。
平屋と二階建てどっちがいい?決めるポイント
平屋と二階建て、それぞれにメリットとデメリットがあると分かると、どちらを選ぶといいのかさらに迷うという人もいるのではないでしょうか。暮らしやすい家を手に入れるために、平屋か二階建てかを決めるヒントになるポイントを6つ紹介します。
【ポイント1】建築時の材料費・施工費
家づくりを考える時に、費用は気になる項目のひとつですね。費用というと、建物本体や工事にかかる費用に加えて、「土地の購入費」「地盤調査」「水道管・ガス管を引き込む敷設工事」「駐車場やフェンス・アプローチ・門扉などの外構工事」などの費用がかかります。
それ以外に、意外に見過ごされがちなのが「材料・施工費」です。
必要な部屋数や水まわりスペースの広さをある程度決めていて、延床面積の目安がつく場合、平屋にすると、二階建てよりも基礎や屋根の面積が広くなります。その分、基礎や屋根にかかる材料費や施工費が高くなります。
対して、二階建ては、平屋にはない階段や階段ホールの材料費や施工費がかかります。1階だけでなく、2階にもトイレや手洗いスペースを設けるなら、追加で設備設置費用や給排水工事費用が必要です。
設備や材料のグレードによって費用は変動するので、一概に「平屋のほうが安い」「二階建てのほうが安い」とは言えませんが、上記の違いを頭に入れたうえで、必要な設備や材料の見積もりを出して検討することが大切です。
【ポイント2】建築後のメンテナンス等の費用
建築時の費用だけでなく、中長期的にかかるメンテナンス等の費用も踏まえて検討しましょう。メンテナンス費用は、屋根や外壁などの「外部」と内装や住宅設備などの「内部」の双方において、見映えや機能の維持のために必ずかかる費用です。
使用する素材によって、また使用頻度や室内外の環境などによって劣化のスピードは異なりますが、自然災害や予想外に早い劣化の進行などが原因で、突発的に修理が必要となることもあります。いざという時に慌てないよう計画的に準備しておかなければいけません。
メンテナンス内容は平屋も二階建ても基本的に同じですが、二階建ては平屋より外壁の面積が広い点や、屋根・外壁のメンテナンス時に足場を組む点を考えると、平屋よりも費用がかかる可能性が高いと考えておきましょう。
【ポイント3】家族構成やライフスタイル
平屋か二階建てかを検討する上で、家族構成は大切な要素です。
夫婦と小学生以下の子どもという単世帯の場合、建築後も当分は体力がある状態で生活できる点や、子どもの独立がまだ先である点を考えると、平屋でも二階建てでも問題なく暮らせるでしょう。子どもが中学生以上なら、進学や就職に合わせて家を出るのが早くて数年後にもやってくるため、子どもとの生活よりも夫婦での生活を見据えて、平屋と二階建てどちらが住みやすいのか検討することが重要です。
夫婦とその親、夫婦とその子ども+夫婦の親など、親世帯と子世帯が同居する二世帯の場合は、それぞれの世帯のライフスタイルが異なっていることが多いため、プライバシーを重視して二階建ての方がストレスが少ない生活ができそうです。特に、玄関や水まわりを世帯で分けたいとなると、平屋ではかなり広い延床面積が必要になるので、土地の広さや建築条件によっては難しいかもしれません。
新築時から夫婦、もしくは単身で住むことがすでに決まっているなら、老後の体力低下を考えて、平屋を選ぶ方が安心と言えます。居住スペースがコンパクトで済む上に、階段を使った上下移動をしなくていいので過ごしやすいです。建築面積を抑えて、前面道路や駐車場から玄関までの段差をなくすことにコストをかけるといった選択もいいでしょう。
そして、平屋か二階建てかを検討する上で、家族のライフスタイルも欠かせない要素です。
たとえば、家族間の密なコミュニケーションを望んでいる場合は、1フロアで家族全員が日常生活を送り、互いの生活リズムを把握しやすい平屋が適しています。対して、「帰宅時間が家族によってまちまちなことが多い」「夜勤がある仕事で週に数日は早朝に帰宅する」「テレワークで日中のある時間帯は静かに集中できる環境が必要」といったライフスタイルなら、家族間で気を遣いすぎずに生活できる二階建ての方がいいでしょう。家族それぞれの生活パターンを考慮して、バランスがより上手に取れる方を選ぶのがおすすめです。
【ポイント4】土地の広さや環境
土地の建ぺい率(土地の面積に対する建築面積の割合)は、行政によって定められています。家の新築に合わせて土地を新たに購入する場合は、理想的な家の広さをざっくりとでもいいので先に決めておいて、その広さの家が建てられる土地なのかをチェックしてから購入を検討することが必要です。先ほども触れたように、同じ延床面積であれば、二階建てよりも平屋の方がより広い土地を必要とするので、購入する土地の条件を踏まえて平屋か二階建てかを絞り込むといいでしょう。
もし、二階建てよりも平屋を希望する場合は、土地の広さに加えて周辺環境もチェックをするべきです。二階建ての家やマンションなど背の高い建物が近くにあると、日当たりや風通しがよくない可能性があります。特に、北側以外の2方向もしくは3方向をふさぐような形で家やマンションなどが建っていると、「日中でも照明をつけなければいけない」「湿気やすくカビが発生しやすい」といった問題が起きやすいです。これから土地を購入する予定なら、土地の周辺にどんな建物があるのかをしっかり確認しておきたいですね。
【ポイント5】生活動線を踏まえた間取りの利便性
家づくりにおいて、生活動線を重視した間取りにするかどうかは、快適性を左右するポイントです。生活動線にはさまざまな種類があるのですが、特に次の3つの生活動線はスムーズさを優先したいものです。
- ●家事動線:料理や洗濯、掃除など家事を行う際の動きを線で示したもの
- ●来客動線:玄関からリビングまでの来客の動きを線で示したもの
- ●衛生動線:浴室やトイレなど衛生的な行為を行う際の動きを線で示したもの
家事動線は、毎日行う家事の効率の良し悪しに影響するので、コンパクトかつスムーズであることが重要です。慌ただしい朝の時間帯でも、料理と洗濯を並行させやすい動線が確保できるよう、キッチンと洗面脱衣室を隣接させるアイデアは、良く採用されます。勝手口を設けた洗面脱衣室と浴室を隣接させておくと、子どもが外遊びなどで泥だらけになって帰ってきても、勝手口からすぐ洗面脱衣室に入って、手を洗ったり服を脱いで入浴できたりするので、掃除に必要な移動を大きく減らせるでしょう。
来客動線は、浴室や洗面脱衣室、トイレといったプライベート空間を家族が使う際の動線と、重ならないように配慮し、家族と来客双方の快適性を高めるために検討が必要です。衛生動線は、朝の身支度や夜間の使用がしやすい状態になるよう工夫したいですね。
これらの動線に支障がないような間取りをつくるには、平屋と二階建てのどちらが有利なのかという視点で検討するのがおすすめです。
【ポイント6】防犯性や安全性
平屋は1階のみなので、上階がある二階建てに比べると、1階に設ける開口部がどうしても多くなります。そのため、生活状況を外部から把握されやすく、二階建てよりも空き巣に狙われやすいという点は否めません。足場がいらない1階に開口部が多いということは、複数の経路から侵入されやすいとも言えます。プライバシーを守る目的で、高めの生垣やフェンスなどを設置すると、今度は敷地内に侵入された際には目隠しになってしまうので要注意です。こうした点を踏まえて、窓の位置や外構のレイアウトを決める時は、「鍵を壊されにくい二重窓を選ぶ」「人感センサータイプの外部照明をつける」「外まわりに砂利を敷いておく」など、防犯性を高める工夫をするといいでしょう。
自然災害時の安全性については、それぞれ特徴があります。平屋は、大雨で道路などに水があふれた時、土地の高さが低いと床下浸水や床上浸水の被害を受けやすいです。一方で、家全体の重心が低く、外壁面積も少ないので、地震の揺れや台風時の強風には比較的強いと言えます。二階建ては、上階があって屋根の位置が高い分、地震の揺れや台風時の強風の影響で家全体が揺れやすいです。その反面、大雨が降って浸水しそうな時は、上階に避難できるため、家族で一緒に避難できる確率が高い点は安心感が強いでしょう。最近は昔に比べて気候が変化し、自然災害の発生が増えてきているので、ハザードマップなども確認した上で、より安心できる方を選択しましょう。
施工事例を見てみよう
「平屋も二階建ても気になる」という場合は、施工事例を参考にして考えるのもおすすめです。平屋と二階建てそれぞれの施工事例を紹介します。
平屋の事例:高い天井を生かしたスキップフロアがおしゃれ
LDKと洗面所、寝室を回遊できる効率的な動線が印象的な間取りです。天井高を生かしたスキップフロアの収納スペースと、ダイナミックな動きを感じさせる勾配天井の組み合わせで、平屋とは思えない立体感を実現しています。
平屋の事例:中庭に面したLDKは勾配天井との組み合わせでゆったりと過ごせる空間に
基本的に1階で過ごせるよう、生活動線をまとめたコンパクトな間取りが人気の事例です。LDKを勾配天井にして高さを出し、化粧梁でアクセントをプラス。中庭に面しているので、プライベートをしっかり守りながら採光や通風も確保できます。
二階建ての事例:収納スペースを各所に配置してスムーズな動線を確保
キッチン背面の飾り棚収納や玄関の土間収納、小屋裏スペースを利用した収納など室内のあちこちに大容量の収納スペースが配置されています。生活動線上に収納スペースを置くことで、無駄な移動をなくせるので、時間の余裕が持てそうですね。
二階建ての事例:ダウンリビングやシアタールームなど個性的な間取りが魅力的
二階建てならではの見晴らしのいいバルコニーは、シアタールームに隣接しており、ベランピングを楽しんだりホームパーティーをしたりとセカンドリビングとして使えます。1階のメインリビングは床面から一段下げてラウンジ仕様に。一味違う個性あふれる空間です。
家族構成やライフスタイルに合わせて選択しよう
平屋と二階建てのどちらにするかは、家づくりの比較的早い段階で決めておくと、後の過程が進めやすくなります。それだけに、優先したい項目をより多く実現できる方を選ぶのがおすすめです。
予算や土地の条件などさまざまな検討項目が気になりますが、一番大切なのは家族全員が笑顔で毎日暮らせる空間を形にすることです。メリットを生かし、デメリットをカバーしながら暮らせるのはどちらなのか、じっくり検討することが大切です。その際には、住宅展示場でモデルホームを見学してみるのもおすすめです。平屋と二階建てそれぞれの間取りプランがヒントになるだけでなく、完成後の生活イメージがつかみやすいので、どちらにするか絞り込みやすくなるのではないでしょうか。
この記事を参考に、メリットを生かしつつ、自然体で暮らせる家づくりを実現していってください。